住宅の空気質は、私たちの健康と快適さに大きな影響を与えます。
その中でも、VOC(揮発性有機化合物)は特に注目されるべき化学物質で、建材や家具、家庭用品などさまざまなものから放出され、室内空気を汚染する要因となります。
このVOCの中には、空気中の含有量がわずかであっても人が刺激を感じるものや、健康への影響があると指摘されているものがあり、アレルギーや呼吸器疾患、頭痛などの健康被害が引き起こされる可能性があります。
今回は、VOCが住宅の空気質にどのような影響を及ぼすのか、そしてその改善方法についてご紹介します。
VOCのリスクを理解し、適切な対策を講じることで、より健康で快適な住環境を実現しましょう。
目次
VOC(揮発性有機化合物)とは?
VOC(揮発性有機化合物)は、Volatile Organic Compoundsの略称で、常温で揮発しやすい有機化合物の総称です。
WHO(世界保健機関)では、有機化合物の揮発性の高さ(沸点)に応じていくつかに分類しています。
VOCは建材、家具、塗料、接着剤、清掃用品、芳香剤、防虫剤などの生活用品から発生するほか、暖房器具、喫煙、排気ガスなどの人間の活動によっても発生し、空気を汚染します。
VOCは特有の臭気を持ち、濃度が一定以上になると健康に悪影響を及ぼす可能性が高まります。
そのため、室内のVOCを減らすことは、健康的な住環境を維持するために非常に重要です。
住宅内でVOCが発生する主な原因と室内濃度指針値
日本では、室内の化学物質による健康被害を防ぐため、厚生労働省が13物質の室内濃度指針値を公表しています。
室内濃度指針値は、化学的知見を基づき、人がその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても有害な健康障害が生じないであろうと判断された値です。
しかし、基準濃度よりも低い数値であったとしても、健康被害を発生させない絶対的な値ではないことに注意が必要です。
特に、化学物質過敏症においては、微量であっても健康被害のある原因物質とされています。
化学物質 | 室内濃度指針値 | 主な用途 |
①ホルムアルデヒド | 100μg/㎥(0.08ppm) | 合板、パーティクルボード、接着剤、メラミン系、合成樹脂、防腐剤 |
②アセトアルデヒド | 48μg/㎥(0.03ppm) | 一部の接着剤、防腐剤 |
③トルエン | 260μg/㎥(0.07ppm) | 接着剤、塗料など |
④キシレン | 200μg/㎥(0.05ppm) | 接着剤、塗料など |
⑤エチルベンゼン | 3800μg/㎥(0.88ppm) | 接着剤、塗料など |
⑥スチレン | 220μg/㎥(0.05ppm) | ポリスチレン樹脂等を使用した断熱材など |
⑦パラジクロロベンゼン | 240μg/㎥(0.04ppm) | 衣類の防虫剤、トイレの芳香剤など |
⑧テトラデカン | 330μg/㎥(0.04ppm) | 灯油、塗料などの溶剤 |
⑨クロルピリホス | 1μg/㎥(0.07ppb) 小児の場合0.1μg/㎥(0.007ppb) |
シロアリ駆除剤 |
⑩フェノブカルブ | 33μg/㎥(3.8ppb) | シロアリ駆除剤 |
⑪ダイアジノン | 0.29μg/㎥(0.02ppb) | 殺虫剤 |
⑫フタル酸ジ-n-ブチル | 17μg/㎥(1.5ppb) | 塗料、接着剤等の可塑剤 |
⑬フタル酸ジ-2-エチルヘシル | 100μg/㎥(6.3ppb) | 壁紙、床材等の可塑剤 |
総揮発性有機化合物(TVOC) | 暫定目標値 400μg/㎥ |
VOCが健康に与える影響
VOC(揮発性有機化合物)は、人体にさまざまな健康被害を及ぼす可能性があります。
特に有名な症状としてシックハウス症候群が挙げられます。
シックハウス症候群は、新築やリフォーム後の住宅で発生する健康被害で、主に建材や家具から放出されるホルムアルデヒドなどのVOCが原因です。
これにより、頭痛、めまい、吐き気、目・鼻・喉の痛み、皮膚のかゆみ、喘息などの症状が現れます。
VOCに長期間高濃度で曝露すると、慢性呼吸器疾患、肝臓や腎臓の機能障害、アレルギー症状の悪化、神経系のダメージが生じるリスクが増加します。
また、一部のVOCはがんのリスクを高めることが知られており、ホルムアルデヒドやベンゼンなどはIARC(国際がん研究機関)によって、最も高いグループの「ヒトに対して発がん性があるグループ1」に分類されています。
特に子どもや高齢者、免疫力の低い方にとっては、影響が大きくなる可能性があるため、適切な換気や低VOC製品の使用が推奨されます。
VOCとシックハウス症候群
高気密住宅ほど危険性が高くなる
高気密住宅は、断熱性と省エネ性に優れ、エネルギー効率の良い住まいを実現しますが、きちんと換気計画を立てなければVOC(揮発性有機化合物)によるリスクが増大します。
気密性が高いことで自然に室内の空気が換気されず、VOCが室内に長時間留まる可能性があるため、VOC濃度が高まり、健康に悪影響を及ぼす可能性が高くなるためです。
そのため、2003年の改正建築基準法で設置を義務付けられたのが「24時間換気システム」です。
関連記事:24時間換気システムは必要?義務化された理由と効果や種類
建築基準法とシックハウス症候群
日本の建築基準法では、シックハウス症候群の防止を目的に、VOCの発散量に関する規制が設けられています。
また、居室の種類や換気回数に応じて、内装仕上げに使用するホルムアルデヒドを発散する建材の使用に制限があり、ホルムアルデヒドの発散量に応じて4つの等級に分けられます。
建築材料 | ホルムアルデヒドの発散 | JIS・JASの対応する規格 | 内装仕上げの制限 |
5μg/㎡h以下 | F☆☆☆☆ | 制限なし | |
第3種ホルムアルデヒド 発散建築材料 |
5μg/㎡h~20μg/㎡h | F☆☆☆ | 使用面積を制限 |
第2種ホルムアルデヒド 発散建築材料 |
20μg/㎡h~120μg/㎡h | F☆☆ | |
第1種ホルムアルデヒド 発散建築材料 |
120μg/㎡h超 | 無等級 | 使用禁止 |
ホルムアルデヒドを発散する建材を使用しない場合でも、家具からの発散の可能性があるため、原則として全ての建築物に24時間換気システムの設置が義務付けられています。
また、天井裏等についても、下地材をホルムアルデヒドの発散の少ない建材にするか、24時間換気システムで天井裏等も換気できる構造にする必要があります。
住宅性能表示制度の空気環境
住宅性能表示制度は、日本の住宅の性能を第三者機関が評価する制度です。
この制度は、10の分野から成り立っており、住宅の空気環境も評価項目として含まれています。
住宅性能表示制度の空気環境に関することには、基本的な対策と考えられる建材の選定、換気方法を評価して表示します。
また、選択事項として、健康への影響の可能性のある化学物質のうち「特定測定物質」として選定されている、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンの5物質の室内の空気中の濃度について実測し、その結果を測定条件等とともに表示します。
住宅の空気質を改善するポイント
自然素材の使用
住宅内のVOC(揮発性有機化合物)濃度を上げないためには、VOCができるだけ使われていない自然素材の使用が有効です。
無垢材や自然塗料など、化学物質を含まない素材を選ぶことで、VOCの発生を抑えることができます。
また、漆喰やサンゴを原料にした壁塗料などVOCを吸収してくれる自然素材もあるため、積極的に利用しましょう。
ただし、VOCができるだけ使われていない自然素材で住宅を建てたとしても、家具や家電、日用品等あらゆるものにVOCが含まれているため、普段使うものにも注意が必要です。
定期的な換気
室内のVOC濃度を低減するためには、定期的な換気が不可欠です。
窓を開けての自然換気は、短時間で効率的に行うことができて、VOCを含む汚染された空気を外に排出し、新鮮な空気を取り入れることができますが、換気が不十分な場所ができてしまう欠点があります。
機械による24時間換気や局所換気を利用することで、お家の中の空気を常に循環させ、室内のVOC濃度を低く保つことが可能です。
換気は、室内に溜まった二酸化炭素や湿気の排出、結露の予防、カビやダニの予防などさまざまな効果があるため、定期的な換気を徹底しましょう。
ベイクアウト
ベイクアウトとは、VOCの濃度を下げるために行なわれる作業のことです。
完成した住宅を密閉し、室温を30度以上に上昇させてVOCの放出を促進して、その後に集中的に排出することで除去する方法です。
ベイクアウトは、シックハウス症候群対策として用いられ、ホルムアルデヒドやトルエンなどの揮発性が高い物質の除去に効果があるとされています。
通常は、工事完了後にVOC放散期間を1~2週間程度設けることが多いですが、時間的余裕がない場合には3日間程度で終了するベイクアウトを行うケースが見られます。
ただし、近年ではその効果が不確実で、あまり繰り返すと建材等の劣化を招く恐れがあるとされているため、十分な注意が必要です。
空気清浄機の使用
室内のVOC濃度を効果的に下げるためには、空気清浄機の使用も効果があります。
空気清浄機は、フィルターにVOCを吸着させることでVOC濃度を低減させ、室内の空気質を改善します。
ただし、住宅全体に効果が及びづらいため、可能であれば他の方法と併用し、換気が行き届かない場所や長時間居る場所などで使用すると良いでしょう。
また、エアコンや空気清浄機のフィルターを定期的に清掃・交換することも、VOC濃度の低減に役立ちます。
VOCは埃に付着することがあるため、こまめに清掃を行い埃を取り除くことで、VOCの再放出を防ぐことができます。
掃除と生活習慣
住宅の空気質を改善するためには、こまめな掃除が重要です。
定期的な掃除は不可欠で、特に床やカーペットにはほこりやダニが溜まりやすく、アレルギーの原因にもなるため、掃除機やモップを使ってしっかりと掃除しましょう。
また、エアコンのフィルターや換気扇の清掃も定期的に行うことで、空気中の汚れやカビの発生を防ぎます。
次に、生活習慣の見直しも大きな役割を果たします。
室内での喫煙は避け、調理の際に発生する油煙や煙も空気汚染の原因となるため、しっかりと換気を行い、湿気や臭いを外に逃がすようにしましょう。
アロマや芳香剤の使用も、含まれている化学物質がアレルギーの原因になることがあります。
これらの小さな習慣を見直すことで、住まいの空気質を向上させ、より快適で健康的な室内環境を実現できます。
まとめ
VOC(揮発性有機化合物)は、住宅の空気質に大きな影響を与え、私たちの健康や快適さに直結します。
現代の住宅は高い気密性を持っているため、VOCの濃度が高くなるリスクがあります。
そのため、定期的な換気を行い、VOCの放散量が少ない建材や仕上げ材の使用と、VOCを吸着・分解してくれる部材や設備を組み合わせて使用することが重要です。
VOCについての理解を深め、適切な対策を講じることで住まいの空気質を向上させ、健康で快適な住環境を実現しましょう。
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大栄建設の ZEH普及実績と今後の目標
2025年度 戸建住宅の総建築数に対するZEH目標値は新築75%・既存75%
2023年度 戸建住宅の総建築数に対するZEH実績値は新築75%・既存0%
2022年度 戸建住宅の総建築数に対するZEH実績値は新築67%・既存0%
2021年度 戸建住宅の総建築数に対するZEH実績値は新築75%・既存0%
2020年度 戸建住宅の総建築数に対するZEH実績値は新築50%・既存0%